現代のデジタルテクノロジーはあらゆる現象を「0/1」の2進数のデータという定量的な情報に変換します。インターネット上で私たちは、人類の歴史のなかでも比類ない速度と規模で、互いの表現物を発信し、共有できるようになりました。
同時に、人間の趣向や関係性から社会政治的状況に至るまで、あらゆる事象がカテゴリーに分類され、ランキングが可視化され、差異が区別されることが当たり前になりました。情報技術が最も高速に進歩し続けているアメリカでは、GAFA(Google / Apple / Facebook / Amazon)による機械学習を用いた情報のフィルタリングが「右/左」という社会分断を生み出し、人々の志向性が「好き/嫌い」というフィルターバブルに閉じ込められているという批判が生まれています。その中で人工知能に代表される情報技術が人間存在を脅かすという「AI v.s. 人間」論や、いわゆる工学主義的な思考と芸術を含む人文知の乖離を指摘する議論も起こっています。
しかし、私たちが生きる世界に備わっている本来的な豊かさは、人間の価値判断に無意識のうちに影響するブラックボックスとしてのアルゴリズムにも、社会的現実から隔離されたホワイトキューブの理想空間にも見つけることはできないでしょう。私たちが志向し得る可能な未来の群は、むしろ膨大なノイズを含みつつも秩序が明滅し続けるグレーゾーンとしての世界認識の中から生成されるのではないでしょうか。
このような問いから、この展示は様々な極の間にある複雑なニュアンス、グラデーション、中間層の可能な形を模索するために、白と黒の間の階調を意味する「grayscale」というテーマを掲げ、早稲田大学の文化構想学部表象・メディア論系の草原真知子ゼミとドミニク・チェンゼミ、そして基幹理工学部表現工学科の橋田朋子研究室という、それぞれ背景や学年、技術力も異なるグループ同士のコラボレーションとして企画されました。
ここで提出されたアイデアは、メディアアート、デザイン、エンジニアリングといった区分の中間にある「グレー」な表現ばかりです。言語とクオリア、情報の実在と潜在、具体と抽象、生と死、有機と無機、さまざまな極の間のグレースケールを浮き彫りにしようとする構成になりました。
願わくばこの展示が来場者の方々のなかで様々な「グレースケール」を喚起するきっかけとなれば、企画者としても望外の喜びです。ぜひ皆さまの忌憚なきご感想を頂ければ幸いです。
JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン 恵比寿駅西口 徒歩4分
東京メトロ日比谷線 恵比寿駅4番出口 徒歩2分
お問い合わせ waseda.grayscale[at]gmail.com
※[at]を@に変えてご使用ください
http://www.a-m-u.jp/event/201802_grayscale.html/
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